動物園の熊みたい
夕方だろうが、食後だろうが、深夜だろうが
ジジの時間の感覚はすっかり混乱してしまっている。
灯の消えたダイニング。廊下の電気ひとつ。
自分の部屋のドアを開け、廊下に立ち尽くすジジ。
とりあえずトイレに行ってみる。
洗面所のドアを開ける。暗いので、奥の浴室の明かりをつけてみる。
物入れのドアを覗き
ダイニングを開けて様子をうかがう。まだご飯じゃないのかな?
玄関の前にしばらくたたずみ、鍵は閉まっているのかな?
シューズロッカーに付いた全身鏡の中を覗き込む。この奥にもまだドアがある…
隣の部屋は誰か女の人がいたかもしれない(ババの部屋)
あれ?この部屋には「○野○男」と書いた紙がはってある。ここは、自分の部屋か?
天上に続く?階段ひとつ、なんだか上のほうで人の気配がするけど・・・
あ!「便所」って書いてあるぞ。トイレに行っておくか…
そこはまさに、延々とくり返される異空間への閉ざされた入り口。
吹き抜けになった階段からジジの様子をそっと伺う。
まるで、動物園のクマが食後に狭いおりから外に出されて、何をしたらいいのか目的も見出せずにウロウロと小さな運動場を行ったり来たりしている。そんなイメージが重なる。
短いときは30分ほど、長いときは1時間以上、ひたひたと歩き回るジジの気配がする。
外に出て行かなければ、まあいいか・・・家の中で散歩だ。