いとしのヒナゴン

著者:重松清
出版:文藝春秋
初版:2004.10.31.
紹介:30年ぶりに目撃された謎の生物ヒナゴン。その存在を信じる、元ヤンキーの町長イッちゃんと教師のジュンペ。そして、嘘つきといわれた健作じいさんを信じているノブ。
中国地方の過疎化の町を舞台に、周辺市町村との合併問題。故郷の町を出て行った者たちと、地元に残った者たち。それぞれの思惑の中でヒナゴンが利用されていく。
町を守るために、そこに住む人のために、合併の賛成派:反対派。さらに、町を飲み込もうとする大きな市。果たして、町長選挙の行方は?町長イッちゃんの決断は?
そして、ヒナゴンはいるのか!?
コメント:タイトルから、ヒナゴン探索のどたばた物語を想像。しかし、ドタバタしているのはイッちゃんを筆頭とするしょうもない40男の悪ガキたち。
半分くらいでヒナゴンは私の頭の中からすっぽり抜け落ちてしまった。
さて、このおはなし、地方で育った人だと、もっと共感できるのかもしれないが、イッちゃんはじめ昔の仲間たちがいる故郷って、その仲間たちが宝物だなと感じた。
過疎でも、どんな町でも、帰ってくる故郷があるというのはなんだかうらやましいなぁ。希望だけでなく、「やり残したこと」があると「後悔」が残ってしまうというところが、若い人の心に触れるかもしれない。
物語は、なかなかいいラストでした。

反自殺クラブ 池袋ウエストゲートパークⅤ

著者:石田衣良
出版:文藝春秋
初版:2005.03.10.
紹介:風俗のお店に女の子を紹介する、腕利きのスカウトマン。「スカウトマンズ・ブルース」
70年代の終わりに一曲だけヒットを飛ばした伝説のロッカーの夢はロックの殿堂を作ることだった。「伝説の星」
世界的な人気を持つ人形ニッキー・Z。彼女たちを作っているのは、劣悪な労働条件の下で働かされている中国の女子工員たちだった。
中国の工場で彼女は殺された「死に至る玩具」
インターネットで仲間を集め集団自殺を幇助するもの。
その集団自殺を阻止させようとする、自殺者の遺児たち。「反自殺クラブ」
コメント:大切なものは、人と人とのつながり…
ウエストゲートパーク。1から読んでみようかな。

著者:中村文則
出版:新潮社
初版:2003.03.25.
紹介:昨日、私は拳銃を拾った。これ程美しいものを、他に知らない-。銃に魅せられてゆく青年の心象と運命を、サスペンスあふれる文体で描く。第34回新潮新人賞受賞作、第128回芥川賞候補作。
コメント:銃を手にするという思いがけない出来事。人を殺すために作られた道具。
その美しさと圧倒的な存在感で、銃は持つ人を支配し始める。銃に心を操られるように、主人公が向かう場所は…。
あとがきで作者は、「この本は決して読んだ人を幸福にする物語とは言えず、人に好まれる主人公ではない」といっている。けれども、書かずにはいられなかった。自分が失われていくその絶望を書くことによって、彼はその先にどんな希望を見つけたのだろうか。

土の中の子供

著者:中村文則
出版:新潮社
初版:2005.07.30.
紹介:親から受けた虐待。自分が痛めつけられることに意識的に向かってしまう。仕事に向かいつつも。時に後ろ向きになり、自虐的な女の姿に自分を重ね合わせ、先の見えない生活の中で、愛とは思えない2人の関係が、お互いを支えあっている。
僕には親などいない、<僕は土の中から生まれたのです>「土の中の子供」
ごくあたりまえの日常といわれる生活に感じられる違和感。仕事も、名前も、身分証明書も全て捨て、本当の自分になってゆく開放感。しかし、その捨てたはずの自分自身の記憶は、果たして事実だったのかどうか?それすら確認することはできない。自分が通り魔の犯人なのかどうか?それすら、わからなくなってゆく。「蜘蛛の声」
コメント:芥川賞受賞作なので読んでみた。
作者の根底に、親からの虐待や、捨てられるという精神的苦痛がある。そのトラウマによる展開といえばわかりやすいが、そうでない状況でも同様な思考傾向が現れるかもしれない。

アーモンド入りチョコレートのワルツ

著者:森絵都
出版:角川文庫
初版:2005.06.25.
紹介:ピアノ教室に突然現れた奇妙なフランス人のおじさんをめぐる表題作「アーモンド入りチョコレートのワルツ」
少年たちだけで過ごす海辺の別荘でのひと夏を封じ込めた「子どもは眠る」
行事を抜け出して潜り込んだ旧校舎で偶然会った不眠症の少年と虚言壁のある少女との淡い恋を綴った「彼女のアリア」
シューマン、バッハ、そしてサティ。誰もが胸の奥に隠しもつ、やさしい心をきゅんとさせる三つの物語を、ピアノの調べに乗せておくるとっておきの短編集。(裏表紙より引用)
コメント:子どもから大人への過渡期、ゆれる不安な心。そのバランスをうまく取ろうとする子どもたちの心の動きが描かれる。
子供は眠る〈子供の情景〉シューマン
彼女のアリア〈ゴルドベルグ変奏曲〉バッハ
アーモンド入りチョコレートのワルツ サティ
どんな曲なのか、聴いてみたい。

いま、会いにゆきます

著者:市川拓司
出版:小学館
初版:2003.03.20.
紹介:「雨の季節になったら、きっともどってくるから」その言葉を残して、彼女は逝ってしまった。そしてもうすぐ、雨の季節がやってくる。
なぜ彼女は、戻ってきたのか?なくした記憶。そしてまた恋に落ちる。
コメント:映画にも,TVにもなり、またその俳優が現実世界でも結婚することになって、なかなか話題が尽きないこの話。原作は、また映画とはちょっと違っている。
原作に出てくる「ノンブル先生」と「ヒューイックと鳴いた犬のプー」
この犬がこの後の作品「そのときは彼によろしく 」に登場する。逃げ出したプーがここにいたのね。
二つの作品は似ている。「ずっと好きだった」「積極的な女の子」「重大な病」「再開」「この世を去った人が住む世界」

心配ない物忘れ 危険な物忘れ

著者:大友英一
出版:栄光出版社
初版:2005.04.10.
紹介:「物忘れ」が、老化による自然のものか、「ぼけ」の始まりか、気になりだしたら…。
その時のために、記憶のメカニズムや、痴呆の定義、その予防と対応など、専門的な内容をできる限り噛み砕いて解説しました。
老化は、ある日突然やってくるのではありません。この世に生を享けた瞬間から、毎日の積み重ねが一生であり、老年期は、その一生の大切な集大成の時期です。
その意味で、壮年の方々はもちろん、青年の方にも読んで頂きたいと思います。
(表紙扉より引用)
コメント:「大友式ぼけ予測テスト」
・同じ話を無意識に繰り返す
・知っている人の名前が思い出せない
・物のしまい場所を忘れる
・漢字を忘れる
・今、しようとしていることを忘れる
・器具の説明書を読むのを面倒がる
・理由もないのに気がふさぐ
・身だしなみに無関心である
・外出をおっくうがる
・物(財布など)が見当たらないことを他人のせいにする
判定 ほとんどない;0点 ときどきある;1点 ひんぱんにある;2点
0~8:正常 9~13:要注意 14~20;病的?
あれ。上から6個はたまにあるぞー。
「ぼけになりやすい人、なりにくい人 」と内容にかなり重複している点がありますね。
さて、病院などで使われる判定テストはこちら
長谷川式簡易知能評価スケール
http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/hasegawa.html

月と菓子パン

著者:石田千
出版:晶文社
初版:2004.04.30.
紹介:猫みちあるき  とうふや巡礼
古着見学  春雨泥棒
夏のあき缶
いなこちゃんといっしょ
出もどり猫  相席日和
ふきみそ田楽  
休日の小さな本  弁当大尽
富士メガネ  壁を見る日……
小さな珠のようなエッセイには、いまを生きるひとの あたたかな幸せがつまっています。
エッセイ界に新しい風が吹いてきました。「表紙扉より引用)
コメント:どこにでもある町に暮らす人々。猫やカラス。子どもの頃の思い出や食べ物など、身の回りに起こる小さな出来事をエッセイにした。
最後の「壁を見る日」は左官さんの1日の仕事をじっくりと観察したエッセイ。
これがまた、一段とおもしろかった。

イン・ザ・プール

著者:奥田秀朗
出版:文藝春秋
初版:2002.05.15.
紹介:「空中ブランコ」で有名になった精神科医伊良部先生の前作。
精神科医伊良部のもとを訪れた患者は、伊良部の子供のような稚気に、あきれ驚かされる。
変人どころの騒ぎではない。常識の枠外で生きているのだ。
体の異変を感じた心身症。体のためにはじめた水泳がいつしかやめられなくなって(イン・ザ・プール)
陰茎硬直症の原因は押し殺した自分の感情の発露?(勃ちっ放し)
自分のまわりの人がすべて、私を追いかけるストーカー(コンパニオン)
1日に300通のメールを送る携帯依存症の高校生が携帯を使えなくなったら(フレンズ)
火元の確認が気になって、仕事にならないルポライター(いてもたっても)
コメント:「空中ブランコ」の方が、伊良部先生のハチャメチャ具合がすごかったな。
「コンパニオン」はテレビ化された中に入ってましたね。
「フレンズ」は、今の携帯電話がない生活は考えられない子供たちにとって、人間関係の構築方法を考えさせられる話だった。ここまでではなくても、メールでつながっていることで、「友達」だと思っていることが、その中身はどれほどのものだろう…
人々の心の中の、本人も気がつかないブラックボックスを、のぞかれた感じだ。

心理カウンセリング 悩める心の相談相手

著者:南博 林幸範
出版:日本実業出版社
初版:2000.12.20.
紹介:職場、学校、医療……様々な場で、カウンセラーが相談者の悩みを聞き、相談者と共に解決の途を探す『心理カウンセリング』が行われている。その基本的考え方からカウンセラーになるための道筋まで紹介する。
実際のカウンセリングの現場から、さまざまな「悩み」を抱えた人たちと、そうした悩みに対するカウンセラーの関わりという具体的ケースを挙げ、「カウンセリングはどのように行われているのか」「どのように役立っているのか」を具体的に伝える。
コメント:仕事柄、「教育相談」「カウンセリング研修」という言葉・事柄に接する機会が多い。
概ねどのようなことをされているのかは想像がつくのだが、今まで自分自身が心理カウンセリングを必要とするような状況になかった。しかしまあ、これだけ多くの相談者やケースが存在するからには、自分自身が今後も無縁とは言い切れない。そこで、ちょっと手にとってみた本です。
わかりやすく、悩める人にも。また、心理学を学びカウンセラーの途を選ぼうかと漠然と考えている人にも、わかりやすい本だと思う。