図書館の神様

著者:瀬尾まいこ
出版:マガジンハウス
初版:2003.12.18.
紹介:バレーボールが正義だった自分が、人を自殺に追い込んでしまった。
バレーボールからも離れ、住んでいる町からも遠く離れた土地で高校の講師を始めたが、待っていたのは退屈な授業と文芸部の顧問という仕事だった。たった一人の部員と図書館で過ごした1年間は・・・
コメント:図書館好きの私がタイトルから想像するものとは、ちょっと趣向の違う話でした。
でも、高校生である一人の部員と接することによって、同じ傷を持っていた主人公が図書館を通して少しづつ解放されていくのは、嬉しい展開だった。
とくに若いときには、絶対的な自信を持っていたことが、ある日打ち砕かれて自分を見失ってしまったりしがちだ。逃げ出したり、殻にこもったり、でも時の流れとほんの少しのキッカケで何かが変わっていくかもしれない…。

私が語りはじめた彼は

著者:三浦しをん
出版:新潮社
初版:2004.05.25.
紹介:彼=歴史学者・村川は間接的に語られる。
中傷の手紙の差出人を捜すことを命じられた彼の助手。彼に妻を寝取られた夫。彼に置き去りにされた息子。彼と手紙を交わす義理の娘の調査を依頼された探偵。彼の娘の婚約者によって…
語られているのは「彼」ではない。「彼」と接触を持つ女たちを通して「彼」が浮かび上がる。
コメント:ここに書き出してみて気づいたのは、「語っている私」はみんな男たちだった。
ここで語られている「彼」は、さして魅力的とも思えない。なのに周りの人間が絡めとられるように人間関係を壊していくように見えるのはなんでだろう。

マジョモリ

著者:梨木香歩
出版:理論社
初版:2005.05.01.
紹介:ある朝 つばきが目を覚ますと、机の上に手紙がおいてありました。
「まじょもりへ ごしょうたい」
道路を渡って、つばきは森の奥深くに進み始めました。
そこには女の人がすわっていて…
時と場所を越えた不思議なまじょもりのお茶会が始まります。
コメント:絵本でしょうか?子供の頃の気持ちを思い出させてくれる、一冊です。
こういう世界を忘れないおとなでいたいし、子供たちにも大切にして欲しい時間ですね。

高齢者のためのいい病院 東京編

著者:青山やすし
出版:かんき出版
初版:2004.0カ.28.
紹介:・老いた親あるいは配偶者をどこに入院させるか?
・リハビリはどこでしてもらうか?
・療養ならどこがいいか?
・痴呆はどこで面倒を見てもらうか?
患者の立場で選んだ50の病院
99~2003年まで東京都の副知事を務めた青山氏が高齢福祉部長時代に、高齢者の病院や老人ホームを見て歩き、そのときに感じたいい病院の選び方。
コメント:義父が介護保険申請をする段になって、困ったことがある。「主治医」の欄に誰の名を書けばいいのか?某総合病院の内科にかかってもう数年。定期的に見てもらっていたが、先日けいれんで救急車による搬送は、「満床」を理由に断られてしまった。新たな搬送先は脳神経外科のある救急病院。しかしその先生は痴呆を扱うものの週2回しかこない。
しかも脳神経外科では「脳血管性の痴呆」の診断や予防には有効だが、痴呆の程度レベルの診断となると、精神科を受診することになる。
精神科で痴呆の進行を遅らせる薬…の処方箋をもらって薬局に行った。
ところが驚くべきことに、もう2年も前から某総合病院の内科で「同じ薬」を処方してもらい飲み続けていたのだ。
高齢者にとっての主治医。主治医となるべき医師のいる病院は、どこを選んだらよいのだろう?ほとほと困ってしまう。
本書は、緊急の救急病院の、その先の病院探しであるが、私にとっては人事ではない。少なくとも、今かかっているどの病院も痴呆対応入院は望めない。かろうじて精神科の医師が本書に紹介されている病院とのつながりがあるので、そこかな…?しかし、いくらこちらが気に入っても、空きがなければ、入院は受け入れられないのだし。
「家で面倒見れなくなったら、病院に入れてしまえばいい」と簡単に言う人もいるが、いろんなことを考えれば考えるほど、そうそう簡単にはかないことがわかってきた。

家守綺譚

著者:梨木香歩
出版:新潮社
初版:2004.01.30.
紹介:池・庭・電灯・二階屋。友人の実家の家守をする、売れない学士・綿貫と草・木・花・獣また、仔竜・河童・人魚・竹精・桜鬼という、なかなかお目にかかれないものたちとの交歓。ふと出没する亡くなった友人・高堂との関係が、なんともいい。
ほんの百年ほど前の設定だが、こんな風景はまだ私が生まれた頃はその名残がまだわずかに残っていたような気がする。心を研ぎ澄ませれば、まだこういうものたちとのかかわるがもてたような…
コメント:目次に並ぶ、植物の名前。名前を見ただけですぐにわかるものも多い。サルスベリ・都わすれ・ダリヤ・ドクダミ・カラスウリ・竹の花・白木蓮・むくげ・紅葉・萩・ススキ・野菊・サザンカ・リュウノヒゲ・檸檬・南天・ふきのとう・山椒・桜・葡萄
けれど、名前は聞いたことがあっても、どんな植物なのかすぐには思い浮かばないものも多い。ヒツジグサ・ツリガネニンジン・南蛮ギセル・ホトトギス・ネズ・セツブンソウ・貝母。これは、検索してみました。ヒツジグサって睡蓮のことだったのね。
読み進むうちに、隣のおかみさんも、和尚も後輩の山内も長虫屋もダリヤの君もみーんな霧と共に消えてしまいそうなそんな不思議な気持ちになってくる。
全く違う話だが、夢枕獏「陰陽師」での清明と博雅が清明の座敷で庭を見ながら酒を酌み交わしている構図が目に浮かびました。
本の装丁もいいですねぇ。紬なのか?細い縦縞。手元に置きたくなってしまう一冊。

クライマーズ・ハイ

著者:横山秀夫
出版:講談社
初版:2003.08.15.
紹介:地方紙の新聞記者悠木は、最古参の「遊軍」。組織にも家族にも自分の心を開けない。自分が傷つくのを恐れているからだ。
 登山仲間の安斉と切り立った衝立岩を登る約束をしたその日、あの未曾有の「日航ジャンボ墜落事故」が起きた。全権デスクを任された悠木は、山から逃げるように、事故記事と紙面の争奪戦に巻き込まれる。現場の若い記者たちと、社内の古参たちの間で思うように動くことができない。
 一方安斉もその日、路上で倒れ意識をなくしていた。なぜ悠木を山に誘ったのか?なぜ山ではなく夜の街中で倒れたのか?
 他人に触れられたくない生い立ちを持つがゆえに、温かい家庭を夢見て、家族を持ったのに、今や家の中に居場所はない。息子との壁を感じてしまう。
コメント:新聞記者としての経歴を持つ作者ならではの、臨場感がたまらない。
衝立岩に登っている今と、17年前のあの時が見事に交錯してラストはすがすがしい。
「クライマーズ・ハイ」=「興奮が乗じて恐怖心がマヒしてしまうこと」
そして、恐ろしいのはそのクライマーズ・ハイがとけたとき。心の中に溜め込んだ恐怖心が、一気に噴き出してくる。

早すぎた老い支度

著者:伊澤次男
出版:講談社
初版:2004.01.15.
紹介:老後は自宅を売って有料老人ホームに入ろう!と、多くの資料を調べ、考え抜いて入居した。「有料老人ホームを選ぶ生き方」
ところが、中に入ってみると、外側からはわからない様々な問題が出てきた「後悔しない有料老人ホームの選び方」
いろいろ考え、行動も起こしたが、結局3年4ヶ月で、老人ホームを退去した「早すぎた老い支度」
コメント:老後を考えるにあたって、どのように暮らしていくか?筆者の奮闘ぶりがうかがえる。
老後といっても、年齢や病気・ハンディなど、それぞれのおかれた状況によってベストは違ってくる。
老後の生活のために、どんなことを準備して心構えをしておいたらいいのか?いろいろと勉強になります。

シンセミア 上・下

著者:阿部和重
出版:朝日新聞社
初版:2003.10.30.
紹介:背の高い男は一人の農夫を殺した、母と祖母の恨みを晴らすために。それは「神町」とその住民への怨憎でもあった。
「神町」という名前にはそぐわない歴史が、その町にはあった。アメリカ軍の占領下「パンパン町」と称され、自宅を娼婦に貸し出す地元民。その中で勢力を伸ばした、田宮家と麻生家。それは戦後も独占的営業をする「パンの田宮」とラブホテルや娯楽施設の「麻生興業」として勢力を持ち続けていた。
2000年7月。処分場反対派の教師の自殺・自動車の事故死・一人の行方不明者。立て続けに3件の事件がおきた。しかしこれは、これから一ヵ月半の間に起きる悲劇的祭典の幕開けに過ぎなかった。
コメント:数多くの登場人物たちのそれぞれの視点から描き出された「神町」は、権力の癒着と横行・麻薬・盗撮・暴力に満ちている。親・子それぞれの世代に繰り広げられ、伝えられていく構図。その中で生活していく人々の悩み・崩壊していく家族の様子など、かなり厳しい。
上下2巻にわたる長編。しかも字が小さめ。巻頭の「主な登場人物」に並ぶのは総勢60名。これだけでもめげる。お願いだから「相関図」を付けて!という気分。途中、何度か放り出しそうになったが、読み終えてみれば、いろいろと考えさせられることの多い内容だった。普通に生きて生活していることが、ちょっと恐ろしい気分になってくる。

博士の愛した数式

著者:小川洋子
出版:新潮社
初版:2003.08.30.
紹介:交通事故によって、それ以降の記憶を80分しかとどめることができなくなった「数学者」と、その数学者の家に派遣された「家政婦」と、その息子の「√(ルート)」
新しいことをまったくとどめない博士の頭の中には、膨大な数え切れない数学の知識が詰まっている。博士との会話は「数字」との対話だ。
他人との交流を結びにくい博士と家政婦親子が、「数字」の持つ魅力によって、新たな人間関係を紡ぎだしていく。その幸せな時間がかけがえのないものになっていく、たとえそれが明日の朝には、忘れ去られているとしても。
コメント:なんともいえない、暖かい、幸せな気持ちにさせてくれる本です。
このまま、博士との生活が永遠に続いて欲しいと思うほどでした、それだけに、中盤を過ぎるとそのあまりにも幸せな気分が、ふと不安になり、心騒ぐほどです。
こんなふうに、こころを紡ぐことができたら、どんなに幸せだろう・・・
「数字」の持つ魅力に、私までもが引き込まれてしまいそうだ。
巻末の参考文献(数学)をメモ(抜粋)
「はじめまして数学1.2」吉田武/幻冬舎
「数の悪魔」エンツェンスベルガー/丘沢静也訳/晶文社
「天才の栄光と挫折 数学者列伝」藤原正彦/新潮社
「数学者の言葉では」藤原正彦/新潮社
「フェルマーの最終定理」サイモン・シン/青木薫訳/新潮社
「放浪の天才数学者エルデシュ」ポール・ホフマン/平石律子訳/草思社