土の中の子供

著者:中村文則
出版:新潮社
初版:2005.07.30.
紹介:親から受けた虐待。自分が痛めつけられることに意識的に向かってしまう。仕事に向かいつつも。時に後ろ向きになり、自虐的な女の姿に自分を重ね合わせ、先の見えない生活の中で、愛とは思えない2人の関係が、お互いを支えあっている。
僕には親などいない、<僕は土の中から生まれたのです>「土の中の子供」
ごくあたりまえの日常といわれる生活に感じられる違和感。仕事も、名前も、身分証明書も全て捨て、本当の自分になってゆく開放感。しかし、その捨てたはずの自分自身の記憶は、果たして事実だったのかどうか?それすら確認することはできない。自分が通り魔の犯人なのかどうか?それすら、わからなくなってゆく。「蜘蛛の声」
コメント:芥川賞受賞作なので読んでみた。
作者の根底に、親からの虐待や、捨てられるという精神的苦痛がある。そのトラウマによる展開といえばわかりやすいが、そうでない状況でも同様な思考傾向が現れるかもしれない。

アーモンド入りチョコレートのワルツ

著者:森絵都
出版:角川文庫
初版:2005.06.25.
紹介:ピアノ教室に突然現れた奇妙なフランス人のおじさんをめぐる表題作「アーモンド入りチョコレートのワルツ」
少年たちだけで過ごす海辺の別荘でのひと夏を封じ込めた「子どもは眠る」
行事を抜け出して潜り込んだ旧校舎で偶然会った不眠症の少年と虚言壁のある少女との淡い恋を綴った「彼女のアリア」
シューマン、バッハ、そしてサティ。誰もが胸の奥に隠しもつ、やさしい心をきゅんとさせる三つの物語を、ピアノの調べに乗せておくるとっておきの短編集。(裏表紙より引用)
コメント:子どもから大人への過渡期、ゆれる不安な心。そのバランスをうまく取ろうとする子どもたちの心の動きが描かれる。
子供は眠る〈子供の情景〉シューマン
彼女のアリア〈ゴルドベルグ変奏曲〉バッハ
アーモンド入りチョコレートのワルツ サティ
どんな曲なのか、聴いてみたい。

いま、会いにゆきます

著者:市川拓司
出版:小学館
初版:2003.03.20.
紹介:「雨の季節になったら、きっともどってくるから」その言葉を残して、彼女は逝ってしまった。そしてもうすぐ、雨の季節がやってくる。
なぜ彼女は、戻ってきたのか?なくした記憶。そしてまた恋に落ちる。
コメント:映画にも,TVにもなり、またその俳優が現実世界でも結婚することになって、なかなか話題が尽きないこの話。原作は、また映画とはちょっと違っている。
原作に出てくる「ノンブル先生」と「ヒューイックと鳴いた犬のプー」
この犬がこの後の作品「そのときは彼によろしく 」に登場する。逃げ出したプーがここにいたのね。
二つの作品は似ている。「ずっと好きだった」「積極的な女の子」「重大な病」「再開」「この世を去った人が住む世界」

心配ない物忘れ 危険な物忘れ

著者:大友英一
出版:栄光出版社
初版:2005.04.10.
紹介:「物忘れ」が、老化による自然のものか、「ぼけ」の始まりか、気になりだしたら…。
その時のために、記憶のメカニズムや、痴呆の定義、その予防と対応など、専門的な内容をできる限り噛み砕いて解説しました。
老化は、ある日突然やってくるのではありません。この世に生を享けた瞬間から、毎日の積み重ねが一生であり、老年期は、その一生の大切な集大成の時期です。
その意味で、壮年の方々はもちろん、青年の方にも読んで頂きたいと思います。
(表紙扉より引用)
コメント:「大友式ぼけ予測テスト」
・同じ話を無意識に繰り返す
・知っている人の名前が思い出せない
・物のしまい場所を忘れる
・漢字を忘れる
・今、しようとしていることを忘れる
・器具の説明書を読むのを面倒がる
・理由もないのに気がふさぐ
・身だしなみに無関心である
・外出をおっくうがる
・物(財布など)が見当たらないことを他人のせいにする
判定 ほとんどない;0点 ときどきある;1点 ひんぱんにある;2点
0~8:正常 9~13:要注意 14~20;病的?
あれ。上から6個はたまにあるぞー。
「ぼけになりやすい人、なりにくい人 」と内容にかなり重複している点がありますね。
さて、病院などで使われる判定テストはこちら
長谷川式簡易知能評価スケール
http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/hasegawa.html

月と菓子パン

著者:石田千
出版:晶文社
初版:2004.04.30.
紹介:猫みちあるき  とうふや巡礼
古着見学  春雨泥棒
夏のあき缶
いなこちゃんといっしょ
出もどり猫  相席日和
ふきみそ田楽  
休日の小さな本  弁当大尽
富士メガネ  壁を見る日……
小さな珠のようなエッセイには、いまを生きるひとの あたたかな幸せがつまっています。
エッセイ界に新しい風が吹いてきました。「表紙扉より引用)
コメント:どこにでもある町に暮らす人々。猫やカラス。子どもの頃の思い出や食べ物など、身の回りに起こる小さな出来事をエッセイにした。
最後の「壁を見る日」は左官さんの1日の仕事をじっくりと観察したエッセイ。
これがまた、一段とおもしろかった。

イン・ザ・プール

著者:奥田秀朗
出版:文藝春秋
初版:2002.05.15.
紹介:「空中ブランコ」で有名になった精神科医伊良部先生の前作。
精神科医伊良部のもとを訪れた患者は、伊良部の子供のような稚気に、あきれ驚かされる。
変人どころの騒ぎではない。常識の枠外で生きているのだ。
体の異変を感じた心身症。体のためにはじめた水泳がいつしかやめられなくなって(イン・ザ・プール)
陰茎硬直症の原因は押し殺した自分の感情の発露?(勃ちっ放し)
自分のまわりの人がすべて、私を追いかけるストーカー(コンパニオン)
1日に300通のメールを送る携帯依存症の高校生が携帯を使えなくなったら(フレンズ)
火元の確認が気になって、仕事にならないルポライター(いてもたっても)
コメント:「空中ブランコ」の方が、伊良部先生のハチャメチャ具合がすごかったな。
「コンパニオン」はテレビ化された中に入ってましたね。
「フレンズ」は、今の携帯電話がない生活は考えられない子供たちにとって、人間関係の構築方法を考えさせられる話だった。ここまでではなくても、メールでつながっていることで、「友達」だと思っていることが、その中身はどれほどのものだろう…
人々の心の中の、本人も気がつかないブラックボックスを、のぞかれた感じだ。

心理カウンセリング 悩める心の相談相手

著者:南博 林幸範
出版:日本実業出版社
初版:2000.12.20.
紹介:職場、学校、医療……様々な場で、カウンセラーが相談者の悩みを聞き、相談者と共に解決の途を探す『心理カウンセリング』が行われている。その基本的考え方からカウンセラーになるための道筋まで紹介する。
実際のカウンセリングの現場から、さまざまな「悩み」を抱えた人たちと、そうした悩みに対するカウンセラーの関わりという具体的ケースを挙げ、「カウンセリングはどのように行われているのか」「どのように役立っているのか」を具体的に伝える。
コメント:仕事柄、「教育相談」「カウンセリング研修」という言葉・事柄に接する機会が多い。
概ねどのようなことをされているのかは想像がつくのだが、今まで自分自身が心理カウンセリングを必要とするような状況になかった。しかしまあ、これだけ多くの相談者やケースが存在するからには、自分自身が今後も無縁とは言い切れない。そこで、ちょっと手にとってみた本です。
わかりやすく、悩める人にも。また、心理学を学びカウンセラーの途を選ぼうかと漠然と考えている人にも、わかりやすい本だと思う。

マンガ心理学入門

著者:ナイジェル・C・ジョンソン 清水佳苗 大前康彦 訳
出版:ブルーバックス
初版:2001.03.20.
紹介:楽しく読めて、誰でもわかる
フロイト、ユングの精神分析から ゲシュタルト心理学、マズローの人間性心理学まで
広大な範囲に及ぶ心理学のエッセンスを、マンガやイラストを駆使してわかりやすく解説。(裏表紙より引用)
コメント:心理学入門というタイトルにひかれて借りた一冊。
心理学という学問の歴史や体系・系列。科学的な側面など全体を網羅するように紹介した内容。
今までに世界中の数多くの人が、人の心や行動を理解しようと試みてきた様子がうかがえる。だからといって、奥深く書かれている本ではないので、もっと奥を知りたい人は別の本を読まなくては…。
中で、一つ収穫。(p103)「Φ象」なるものの説明。ヴェルトハイマーは、2本のスリットの向こう側から2個のライトを照らすというという、簡単な実験装置を作った。それぞれのライトのスイッチを、すばやく(0.06秒ごとの間隔で)入れたり切ったりすることによって、たった一つのライトが前後に動いているという錯覚が生まれた。これが「Φ現象」である。
これって、森博嗣の「Φは壊れたね」のΦじゃないかな?

ぼけになりやすい人、なりにくい人

著者:大友英一
出版:栄光出版社
初版:1999.04.15.
紹介:「生涯現役でぼけ知らずの人生」「ぼけとは」「ぼけはなぜ起きるのか?」「ぼけの危険因子」「脳の老化を防ぐ」「ぼけの予防」「ぼけ予防10か条」医者の立場でわかりやすく解説。
「ぼけ予防の10か条」
1.塩分と動物性脂肪を控えたバランスのよい食事を
2.適度に運動を行い足腰を丈夫に
3.深酒とタバコはやめて規則正しい生活を
4.生活習慣病(高血圧、肥満など)の予防・早期発見・治療を
5.転倒に気をつけよう・頭の打撲はぼけを招く
6.興味と好奇心をもつように
7.考えをまとめて表現する習慣を
8.細やかな気配りをしたよい付き合いを
9.いつも若々しくおしゃれ心を忘れずに
10.くよくよしないで明るい気分で生活を
「ぼけにくい人」
・社交的で融通がきき、いつもほがらかで明るい人
・他の人の心を思いやり、周囲に細かい気配りの出来る人
・なんでもおっくうがらずに、こまめに体を動かす人
・積極的で、いつも新しいことにチャレンジしようとする好奇心と意欲のある人
・仕事や子育て以外に趣味や生きがいを持っている、積極的人生エンジョイ型の人
・常に夢を持ってその実現 ゚ざす人
・おおらかに大声で笑ったり、カラオケなどでストレスを発散しやすい人
・スタイルやファッションに気を使う人
・おしゃべり上手で、友だち付き合いの多い人
・異性への関心を失わない人
・テキパキ主婦で、出たがり好きの主婦
・ボランティア活動などにも進んで参加するような人
・機知に富んだユーモア感覚のある人
・多少は見えをはる人、負けず嫌いの人
・頭の切り換えがうまく、よく学びよく遊ぶ人
コメント:これと逆にぼけに向かう最短距離の道もある。
あぶない!あちこち寄り道していかなくちゃ。
私が気をつけるのは2かな?
あと7については、囲碁や将棋。俳句や短歌・日記や手紙、読書感想文などもいいらしい。

哀歌 上下

著者:曽野綾子
出版:毎日新聞社
初版:2005.03.20.
紹介:アフリカの発展途上国に派遣された修道女。日本での常識が通用しない、そして、この国の現状は日本では誰にも理解してもらえない。そんな中で、部族の対立から政治不安・さらには部族に関わらず手当たりしだいの虐殺が行われる。善意の仮面をかぶった裏切り。聖域である修道院で外国人として生活しながら、身近な人々が次々と命を失っていく。
 その中で、主人公の修道女が自分の立場と、心の中での葛藤が描かれてる。
修道女や神父までもが殺されてゆく惨劇、繰り返される虐殺のドサクサにレイプされる。
ボロボロになって脱出してきたところで、偶然であった善意の日本人。後半3分の1は
修道女としての自分と、お腹の中の決して愛することができない命をめぐってまた葛藤する。
コメント:「ルワンダ虐殺」が舞台だった。その歴史的事実も
知らなかったし…同じ地球で同じ時代を生きていたのに全く気づかず関心を持っていなかった自分自身にも驚くが、とにかく悲惨な事件。
主人公は現世を捨てた修道女とはいっても、けっこう人間くさい。
まして、現地の修道女たちは、慎みとは縁がない。日本とルワンダの様々な差異に驚かされる。
さて後半。善意の日本人は、日本に帰るための飛行機やホテル代など助けてくれるわけだが、次第に、物心両面で手を差し伸べてくれるようになる。修道女であることを辞めた彼女の中で、その人が今まで姿を現すことがなかった「主」「神」に重なっていくように感じたのは私だけだろうか。