著者:伊澤次男
出版:講談社
初版:2004.01.15.
紹介:老後は自宅を売って有料老人ホームに入ろう!と、多くの資料を調べ、考え抜いて入居した。「有料老人ホームを選ぶ生き方」
ところが、中に入ってみると、外側からはわからない様々な問題が出てきた「後悔しない有料老人ホームの選び方」
いろいろ考え、行動も起こしたが、結局3年4ヶ月で、老人ホームを退去した「早すぎた老い支度」
コメント:老後を考えるにあたって、どのように暮らしていくか?筆者の奮闘ぶりがうかがえる。
老後といっても、年齢や病気・ハンディなど、それぞれのおかれた状況によってベストは違ってくる。
老後の生活のために、どんなことを準備して心構えをしておいたらいいのか?いろいろと勉強になります。
著者:阿部和重
出版:朝日新聞社
初版:2003.10.30.
紹介:背の高い男は一人の農夫を殺した、母と祖母の恨みを晴らすために。それは「神町」とその住民への怨憎でもあった。
「神町」という名前にはそぐわない歴史が、その町にはあった。アメリカ軍の占領下「パンパン町」と称され、自宅を娼婦に貸し出す地元民。その中で勢力を伸ばした、田宮家と麻生家。それは戦後も独占的営業をする「パンの田宮」とラブホテルや娯楽施設の「麻生興業」として勢力を持ち続けていた。
2000年7月。処分場反対派の教師の自殺・自動車の事故死・一人の行方不明者。立て続けに3件の事件がおきた。しかしこれは、これから一ヵ月半の間に起きる悲劇的祭典の幕開けに過ぎなかった。
コメント:数多くの登場人物たちのそれぞれの視点から描き出された「神町」は、権力の癒着と横行・麻薬・盗撮・暴力に満ちている。親・子それぞれの世代に繰り広げられ、伝えられていく構図。その中で生活していく人々の悩み・崩壊していく家族の様子など、かなり厳しい。
上下2巻にわたる長編。しかも字が小さめ。巻頭の「主な登場人物」に並ぶのは総勢60名。これだけでもめげる。お願いだから「相関図」を付けて!という気分。途中、何度か放り出しそうになったが、読み終えてみれば、いろいろと考えさせられることの多い内容だった。普通に生きて生活していることが、ちょっと恐ろしい気分になってくる。
著者:小川洋子
出版:新潮社
初版:2003.08.30.
紹介:交通事故によって、それ以降の記憶を80分しかとどめることができなくなった「数学者」と、その数学者の家に派遣された「家政婦」と、その息子の「√(ルート)」
新しいことをまったくとどめない博士の頭の中には、膨大な数え切れない数学の知識が詰まっている。博士との会話は「数字」との対話だ。
他人との交流を結びにくい博士と家政婦親子が、「数字」の持つ魅力によって、新たな人間関係を紡ぎだしていく。その幸せな時間がかけがえのないものになっていく、たとえそれが明日の朝には、忘れ去られているとしても。
コメント:なんともいえない、暖かい、幸せな気持ちにさせてくれる本です。
このまま、博士との生活が永遠に続いて欲しいと思うほどでした、それだけに、中盤を過ぎるとそのあまりにも幸せな気分が、ふと不安になり、心騒ぐほどです。
こんなふうに、こころを紡ぐことができたら、どんなに幸せだろう・・・
「数字」の持つ魅力に、私までもが引き込まれてしまいそうだ。
巻末の参考文献(数学)をメモ(抜粋)
「はじめまして数学1.2」吉田武/幻冬舎
「数の悪魔」エンツェンスベルガー/丘沢静也訳/晶文社
「天才の栄光と挫折 数学者列伝」藤原正彦/新潮社
「数学者の言葉では」藤原正彦/新潮社
「フェルマーの最終定理」サイモン・シン/青木薫訳/新潮社
「放浪の天才数学者エルデシュ」ポール・ホフマン/平石律子訳/草思社
著者:大田仁史
出版:講談社
初版:2004.07.20.
紹介:外科医でもある著者が、自らの「老い」と母親の「介護」を通して、これからの「老いと介護」を考える。
1部.「老いのあり方を考えよう」
「痛みの共感」は、言葉に出して、思いやりを伝える→「言葉の持つ力」
自身のオムツ体験→「トイレで排泄すること」は基本的な尊厳
2部.「介護のあり方を考えるよう」
「ヘルパー3級取得運動」3つの利点
・自分が受ける介護サービスの質がわかる。
・人の世話をすることで他人への配慮やボランティア精神を培う
・介護予防への気配りができる
脳梗塞「寝たきりは寝かせ切りがつくる」「寝たきり防止は三日が勝負」
手厚い看護が、仇になる。
コメント:筆者も書いて書いているとおり、1部と2部で重なっている部分も多く、ちょっと話が回りくどい気もする。けれど、それを差し引いたとしても、勉強になることも多い。
「ヘルパー3級」勉強した方がいいのかな?
著者:桐野夏生
出版:新潮社
初版:2004.02.25.
紹介:世間の好奇の目にさらされる、少女誘拐・監禁事件の被害者。失踪した作家が書き残した原稿には、被害者としての事実が書かれていた。誰にもわかってもらえない・封印された記憶。犯人との意思の交流、ひたすら助けを待った隣人。
解放後「性的被害者」としてさらされる好奇の目。崩壊して元には戻らない家族。
作家として書き綴る「毒の夢」「男の性」原稿の中に潜まされる「あったかもしれないもう一つの話」原稿の中の事実と虚構。誰にも話さなかった彼女の「真実」とはなにか?
コメント:新潟の誘拐監禁事件を思い出させる。引き込まれて短時間で読み終えてしまった。
少女期に体験する「男の性」は、女性に多大なトラウマを植え付ける。
そして、それは親にも誰にもいえない、審の奥にしまいこまれ、彼女自身を形成してしまうのだ。こういう心理はわかるような気がする。
著者:小宮英美
出版:中公新書
初版:1999.10.15.
紹介:痴呆がおきてしまうのは仕方がない。家族が介護しきれなくなったときに、お年寄りを受け入れてくれるのはどこなんだろう?
多くの痴呆老人が病院を3ヶ月ことに転々とかわり、そのたびに新しい環境を受け入れられなくなって、痴呆がよりひどい状況に追い込まれていく。
お年寄りを管理する画一的な病院ではなくて、長期的に、ふだんの家庭での生活に近い状態で、お年寄りの持つ能力を引き出しながら、人間らしく生活を送る。それが可能になるのが少人数の「グループホーム」だ。
この本では、多くの痴呆老人のたどるケース・ケアの実態をもとに報告されている。
コメント:特に内臓疾患などを持たない、身体的には健康な高齢者が、痴呆という状態に陥ったときどういうケアが望ましいのか、考えさせられる。
いくつかの痴呆のケースが紹介されていて、本人の混乱・困惑ぶりが手に取るようにわかる。自分の居場所がないと感じる不安。
お年寄りが安心して生活できるようにするには、どうしたらいいのか?いろいろと考えさえられた。
著者:春日キスヨ
出版:朝日新聞社
初版:2000.08.05.
紹介:美しい介護体験記ではなくて、巷にあふれる、介護をめぐる「家族」の喜怒哀楽をたくさんのケースから紹介。
その多くは娘の立場、嫁の立場で親の介護をする女性である。
しかし、公的介護保険制度を含め、これからの日本の高齢者福祉を考えるとき「嫁が看る、娘が看る」「家族、特に女性が看る」という、「家族幻想」頼っていたのでは、根本的な問題は解決されない。
コメント:様々な家族の、「家族介護」が紹介されている。介護する側の見方だけではなく、介護される側の気持ち。また周りを取り巻く親戚、ヘルパーとの関係。介護保険制度が導入されて、一人が介護を抱え込むことは少なくなったかもしれないが、介護が必要なのに放置されている一人暮らしの高齢者も存在する。高齢者社会になり、介護を必要とする人が増え、それと共に、いろんな問題点も出てきた。
娘として、嫁として避けて通ることのできない問題であるだけに、この本は「介護」ということを客観的に見ることができて、とても参考になる。
著者:奥田英朗
出版:文藝春秋
初版:2004.04.25.
紹介:精神科医伊良部のもとを訪れた患者は、伊良部の子供のような稚気に、あきれ驚かされる。
変人どころの騒ぎではない。常識の枠外で生きているのだ。
サーカスでは空中ブランコに挑戦(空中ブランコ)
先端恐怖症のやくざと、ブランケット症候群のやくざ(ハリネズミ)
教授のカツラをはずしたい!破壊衝動に耐える婿養子(義父のヅラ)
一塁送球ができない三塁手を相手に、キャッチボール(ホットコーナー)
脅迫症と嘔吐症に襲われる作家(女流作家)
コメント:なに!?この精神科医?伊良部の言動は想像を裏切るものばかり。
およそ医者らしくもなく、子供のように、無心に無邪気に?まっすぐ生きることができるのか?・・・振り回されているあいだに、なぜか癒され、不安や迷いを断ち切ることができる患者たち。伊良部先生に拍手!
「金王神社→金玉神社」「王子税務署→玉子税務署」「東大前→東犬前」「大井一丁目→天丼一丁目」いたずら書き万歳!
読んでいて楽しくなる。「イン・ザ・プール」も精神科医伊良部が登場する作品集らしい。読んでみよう!
著者:松久淳 田中渉
出版:小学館
初版:2002.10.10.
紹介:10年経ったら、いっしょになろう―。若き女性ピアニストと花火師の恋は突然終りを迎えた。
それから十余年。ピアノを弾く意味を見失いリストラされたピアニスト健太。伝説の花火復活に奔走する香夏子。完成されることなく別々の場所に離れてしまった「恋する花火」と「恋するピアノ曲」は、新たな二人によって、一つのハーモニーを奏でることができた。
コメント:映画化されたラブストーリー。ロマンチックで、まあいいですねぇ。
著者:森博嗣
出版:講談社
初版:2004.09.05.
紹介:(裏表紙より引用)おもちゃ箱のように過剰に装飾されたマンションの一室に芸大生の宙吊り死体が!
現場は密室状態。死体発見の一部始終は、室内に仕掛けられたビデオで録画されていた。
タイトルは『Φは壊れたね』。
D2大学院生、西之園萌絵が学生たちと事件の謎を追究する。
森ミステリィ、新シリーズいよいよ開幕!!
コメント:わー!萌絵ちゃんだ~。新しい登場人物・加部谷恵美・海月及介・山吹早月が加わった。
犀川創平とよく似た思考回路を持つ海月及介はまた不思議。
「Φってなんだ~?」状態の文型人間にとっては、タイトルからして煙に巻かれた感じ。
「Φ現象」ヴェルトハイマーは、2本のスリットの向こう側から2個のライトを照らすというという、簡単な実験装置を作った。それぞれのライトのスイッチを、すばやく(0.06秒ごとの間隔で)入れたり切ったりすることによって、たった一つのライトが前後に動いているという錯覚が生まれた。これが「Φ現象」である。(マンガ心理学入門p103より引用)
これって、森博嗣の「Φは壊れたね」のΦじゃないかな?