I’m sorry,mama.アイムソーリー・ママ

著者:桐野夏生
出版:集英社
初版:2004.11.20.
紹介:娼婦の置屋で生まれ、戸籍をもたないまま8年も育ち、福祉施設で過ごしたアイ子。彼女の周囲で起きる火事、嘘と盗み、そして殺人の人生。
いつも持ち歩く白い靴。それは、たった一つの母の形見。アイ子は自分の「ママ」を探していた。
不幸な母と、娘の物語。
コメント:育った環境がその人の人生に大きく影響を及ぼすと思っていた。
しかし、小さな子供に、その環境を変える力はないのだ。だとすれば、幼い子供の身につくことは、その環境から自分の生き抜く力を学習することだけ・・・
それぞれが、皆したたかに生きるすべを探っている。そのことを、誰が非難することができるだろう。

明日の記憶

著者:荻原浩
出版:光文社
初版:2004.10.25.
紹介:広告代理店の部長、50歳。
人の名前がでない・会議の日を忘れ・道に迷う。若年性アルツハイマー病と診断され、必死になってメモを取り、手帳に書き込む。
妻は、病気にいいと聞く食べ物を料理し、藁にもすがる思いであらゆる手立てを講じる。自分ではまわりに知られないようにと、気をつけていたはずなのに…。病気のために閑職へ配置転換される。
娘の結婚式までは、何とか…という思い。
アルツハイマー型老人性痴呆の親を看取った記憶がよみがえる。自分が人でなくなっていく恐怖。
コメント:身につまされる。半日で、一気に読み上げてしまったが、実際の病気の進行は、数年にわたってじわじわとその身と心を蝕み続けるのだ。
自分が自分でなくなっていく不安。心配の余り、いろいろなことを何度も確認せずにはいられない。若年性であるとすれば、その恐怖は計り知れない。
いまの私にとっては、何度も読み返したくなる一冊。

対岸の彼女

著者:角田光代
出版:文藝春秋
初版:2004.11.10.
紹介:「もしも、今の自分が、もっと違う自分だったら…」
スタイルがよかったら?美人だったら?明るくて、すぐに人の中に溶け込めたら?
こんな自分を捨てて、新しく人生を歩きたい。
 そんな思いは、多くの人の心の中にあるのだろうか?
自分の生活を変えるために、働くことを決め、面接を受けた。目の前に現れた女社長は輝いて見えた。
コメント:女性なら、一度は感じたことがあるかもしれない。
あのドロドロとした仲間意識。どこに属したらいいのか?その中で、うまく卒なく生きてゆくことの「ウソくささ」。
自己嫌悪。現実の呪縛から逃れるために模索する。
 ウーム、その気持ちはわからなくもない。が、もっと自分に自信を持って、自分を好きになりたいなぁ。

そのときは彼によろしく

著者:市川拓司
出版:小学館
初版:2004.11.01.
紹介:花梨・祐司そしてぼく
人と関わることが苦手で、ひとりでいることが好きだった僕。13歳の春、僕らは出会った。ゴミの山が僕らの隠れ家だった。三人と一匹トラッシュといる時間はかけがえのない大切な時間だった。しかし、その時間は永遠に続くことはなかった。
 大人になった僕の前に現れたモデル鈴音。アクアプランツの店・水の森「トラッシュ」に不似合いなアルバイト店員夏目。それぞれが、自分の大切なものを抱えて集まる。
 途切れたはずの思い出が再びつながろうとしている時、再び別れが…。夢の底にあるもうひとつの世界で会うのは誰なのか…。
コメント:予約待ちすること5ヶ月余り。なんで、この本を予約したのかさえ忘れていた一冊。
裏表紙をめくって納得「いま、会いに行きます」の作者が書いた本だった。ちなみに「いま、会いにゆきます」は未だに予約待ち。

白蛇教異端審問

著者:桐野夏生
出版:文藝春秋
初版:2005.01.30.
紹介:桐野夏生氏デビュー12年目にして初のエッセイ集。
Ⅰショートコラム Ⅱ日記(直木賞受賞前後 他) Ⅲエッセイ
Ⅳ書評・映画評 Ⅴショートストーリー Ⅵ白蛇教異端審問
コメント:軽い気持ちで「エッセイ集ね~」などと読み始めると間違いかもしれない。
プロの作家として、言葉・作品との取り組み姿勢がひしひしと伝わってくる。
主婦の片手間に小説を書いているとは思っていなかったが、本のほとんどを
図書館で借りてくる私としては、印税問題など・・・ちょっと心苦しい点もある。
物書きにとっての作品は、作家の身を削って書かれ生み出されてくるものなのだと改めて感じた。
このエッセイ集は興味深く読んだが、中でもⅣ書評・映画評心に留まりました。

硝子のハンマー

著者:貴志祐介
出版:角川書店
初版:2004.04.20.
紹介:介護会社の社長が昼寝の最中に殺された。何重もの防犯システム・密室となった社長室の犯人は?動機は?
被疑者の弁護人と防犯グッズ会社の社長が組んで、被疑者の無実を証明しようとする。考えられるあらゆる限りの方法を試してみるが…。
 会社や役員をめぐる様々な人間模様。単なる殺人事件か?巧妙な手口、疑わしいものがあちこちに隠されている。真の殺人者の動機と手段は?
コメント:しばらく見かけないと思ったら「青の炎」から4年以上たっていたらしい。
子どもにとって、自分が当たり前のように思っていた生活がある日突然奪い去られ、自身の身も危険にさらされるとした 轣Hどうやっていきたらいいのか?

アキハバラ@DEEP

著者:石田衣良
出版:文藝春秋
初版:2004.12.09.
紹介:ネットの海で知り合った4人は、それぞれ生きにくい問題を抱えていた。
吃音・潔癖症・突然のフリーズなど・・・
しかし、4人が一緒にいることで、お互いの足りないところをカバーできる。
さらに、ハッカー・ひきこもりだった法律家・格闘家という、3人の仲間を得て、
彼ら「アキハバラ@DEEP」 はAIを使った新しいサーチエンジンを開発する。
狭い秋葉原の古ぼけた部屋で「クルーク」は生まれた。画期的なソフトを狙って、
大手企業が買収にかかろうとする。僕たちの「クルーク」を守れ!
コメント:オタクの町として有名になった秋葉原。その片隅で、集まる仲間。1人の力は小さくても
集まれば、大きな力になる。読んでいて、なかなかワクワクする話しだった。
個性的なメンバーがまるでパズルのピースの一つ一つみたいだ。きっとどこかにいるべき場所が見つかる。

幻夜

著者:東野圭吾
出版:集英社
初版:2004.01.30.
紹介:阪神大震災は多くの人の命を奪い、それぞれの人生を狂わせた。
そのどさくさに紛れて行った殺人。現場に居合わせた女。しかしそのことが男の人生を変えた。
二人に未来はあるのか。
コメント:女の怖さを、ひしひしと感じます。ラストがまたショック!

ドグラ・マグラ

著者:夢野久作
出版:角川文庫
初版:1976.10.10.
紹介:「ドグラ・マグラ」は、昭和10年1月、1500枚の書き下ろし作品として、松柏館書店から自費出版された。
〈日本一幻魔怪奇の本格探偵小説〉〈日本探偵小説界の最高峰〉〈幻怪、妖麗、グロテスク、エロティシズムの極〉と歌った
宣伝文句は読書界の大きな話題を呼んだが、常人の頭では考えられぬ、余りに奇抜な内容のため、毀誉褒貶が相半ばし
今日にいたるも変わらない。
〈これを書くために生きてきた〉と著者みずから語り、10年余年の歳月をかけた推敲によって完成された内容は
、狂人の書いた推理小説という、異常な状況設定の中に、著者の思想、知識を集大成する。
これを読む者は、一度は精神に異常をきたすと伝えられる、一大奇書。
(表紙扉より引用)
コメント:精神科病棟で目覚めた自分は何者であるのか?
失われた記憶を取り戻す手がかりは、ある殺人事件に関する膨大な資料だった。
読んでいくうちに、いま自分が読んでいるものが一体なんだったのか?
それすら混沌として分からなくなってしまう。壮大な計画の下に仕組まれた研究なのか?
誰が正常で、誰が狂人で、実際のところ誰が犯人で…
よくもまあ、10年もかけてこんなものを書き上げたものだ。
「読んだぞ!」という満足感だけは確かにある。

いい女

著者:藤本ひとみ
出版:中央公論新社
初版:2005.03.25.
紹介:完璧な家庭・家族の幸せを最優先に生きてきた詩織。しかし、現実には自分勝手な夫と、わがままな娘たち。誰一人詩織の努力に報いることなく、そこに詩織が思い描いていた暖かな家庭はなかった。
どこで間違ってしまったんだろう?久しぶりの同窓会をきっかけに、家族のために自分を犠牲にすることをやめ、自分自身を生きようと思い立つ。
エステに行き自分を見つめ。美しくなることでまわりが変わってゆく・・・しかし、思わぬところで子供たちの反乱にぶつかる。
「もっと何かが欲しい!平凡なままでは満たされない。
夢を現実にしようとして、反乱を起こした一人の女性。その変身の行方をリアルに描く問題作。」(帯カバーより引用)
コメント:ここまで極端で完璧ではなくても、主婦ならなんとなく、家族のために自分を犠牲にしているという感じを持って生活しているのではないだろうか。こんなふうにできたらいいかなぁ・・・と思ってみても、フランス語ができるわけでもないし、まあそうそういい女に大変身して劇的に生活が変わるなんていうのはやっぱりお話の中だけだ。
藤本ひとみの歴史ものも面白くてステキだけど、コバルト時代からつながる、平凡な女性主人公のまわりに、なぜか魅力的な男性がたくさん出てくるって言う話は、私的には好きだわ。