著者:大江健三郎
出版:講談社
初版:1999.06.15.
紹介:新興宗教の指導者であった「師匠」と「案内人」は、10年前「宙返り」をして、信仰も教義もすべてが茶番であったとテレビで大々的に告白した。その後の10年間、見捨てられた信者たちはどうしていたか?「師匠」「案内人」は何をしていたか。
「宙返り」以後、「師匠」の回りに集まってきた様々な人々、は何を求めていたのだろう。信仰・救い・彼らはそれぞれの救いを求めているのだ。
そして、果たして「師匠」は彼らの救い主になることが出来るのだろうか?
「宙返り」以前と、新しい教団への動きの中で、それぞれの救いの形が浮かび上がる。
コメント:新興宗教が何故、どういう過程で形成されていくのか?一つの形が見えてきたように思います。信仰・宗教というものには無関係に暮らしている私ではあるが、この作品の中では信仰を求める人間の心が見えてくるような気がしました。
誰もが救いを求めて、「師匠」自身も自分が何者であるのか迷っている。舞台の中央に担ぎ出す者によって、形作られていく「教団」はもはや自分の意志の届かないところにあるのだ。
末期ガンに冒された木津が、信仰に無縁なまま「師匠」を見る、その離れた視点が興味深く思われる。
下巻p44からの引用ですが「苦しんで教団にやってくる人たちには、もとめる救いへの方向づけがあるということでした。かれらはそれぞれ、自分の救いに向かって進む。なお救いをかちとっていないという自覚が強いほど、困難でも救いへの途上にあることは自覚している。むしろ、救いをかちえていないという自覚こそが、彼らの信仰を加速する力でした。」ここが、私にとっての一番のキーワードでした。
著者:花村萬月
出版:文藝春秋
初版:1998.09.20.
紹介:119回芥川賞受賞作品
紹介がしづらいので、私の心に留まった文章を引用させていただきます。
P.85より引用
「とくに物事をどう考えるか、どのように考えるかをモスカ神父から習った。答えが目的ではなくて、考えること自体が目的であるということを徹底的に教わったのだ。」
P.176より引用
「それは僕は自尊心ゆえに、この奴隷の境遇に慣れ始めていた。自らを否定しないためには、状況に対して頷いてやらなければならない。ねじ伏せられているのではなく、自らすすんで行っているのだと自分に言いきかせ、それを信じこむのだ。いま思い返せば、それが宗教の発生ではないだろうか。そんな気がする。単純な言い方で気が引けるが、苛烈な現実の肯定が宗教だ。」
コメント:途中でやめられなくて、一気に読んでしまいました。
なんて言うか・・紙面に印刷されている文字はすごいんだけど、その文字の内側に書かれているものは、結構読み応えがありました。
時代や状況などは、今の私たちの生活とかけ離れているのだけど、途中で中学生の「いじめ」の心理がかぶさって見えてきました。「芥川賞」を受賞したのは納得の一冊です。
そうね・・・確かに大きな声で「おすすめ」とはいえないけど(笑)
著者:東野圭吾
出版:講談社
初版:1985.09.10.
紹介:女子校の数学の教師である主人公が、誰かに命を狙われているらしい。しかし殺されたのは同僚の教師だった。密室殺人?トリックは?そして、さらに第2の被害者は主人公の身代わりに殺されたのだ。学校の回りにうごめく様々な人間模様、真犯人に気付いた主人公は・・・
第31回江戸川乱歩賞受賞作品
コメント:結構面白かったです。ただ最新作「白夜行」を読んだばかりなので、ちょっと物足りないかな。初期の作品のようです。
著者:高橋克彦
出版:祥伝社
初版:1992.06.30.
紹介:東洋では神と崇められ、西洋では悪魔の化身とされる〈竜〉。
人類の文明を2分する竜の謎を世界各地に追い求めた九鬼虹人たちは、〈ノアの方舟〉伝説をもとにトルコ・アララト山に眠る〈竜の柩〉を発見し、乗り込んだ。やがて彼らは地球と見紛う地に到着した。古代シュメール語を使い、聖書の記述に酷似した人々の生活。が、そこでも〈竜〉を神とする一族と、悪魔と忌む一族の対立があった。何のために、何故、九鬼はこの地に招かれたのか?
「地球、しかも4千年前のシュメール!」
九鬼虹人は激しく動揺した。彼らは古代の地球に来て、神々の戦いに巻き込まれていたのだ。九鬼は今、竜の神に対面していた。神は「未来」を聞くために彼らをこの地に招いたのだという。しかし、未来を語れば、九鬼もまた預言者として神に列せられる。一行は神の言葉を確かめるため、古代の日本に向かった・・・・・・。壮大な文明の謎に挑む前人未踏の大作ついに完結!(表紙扉より引用)
コメント:いやぁー、面白かったです。古代ロマンSF!
何だか思わず九鬼虹人の仮説にどっぷりと染まってしました。
2000年・辰年にピッタリの一冊でした!
著者:村上春樹
出版:講談社
初版:1999.04.20.
紹介:ぼくは、「すみれ」が好きだった。でも「すみれ」にとって、僕は「完璧な友達」だったのだ。そんな「すみれ」が恋をした。僕が今までどうやって生きてきたか?「すみれ」の、生き方。そして今僕にできることは・・・
コメント:「ねじまき鳥クロニクル」のように手強かったらどうしようとちょっと心配でしたが、これはちょっといい感じでした。途中ででてくるギリシャの風景などは、エッセイ「遠い太鼓」と重なる部分が伺えました。同じ作家の本を何冊も読むと、いろいろな著作の中で、作者がテーマとしているフレーズや、意識などが見えてきて、面白くなってきますね。
うまく言葉で表現できないのだけど、主人公の「すみれ」への思い、「すみれ」の存在自身もいいし。あと、万引きした生徒への「独白」て言うのかな・・・あの辺が凝縮されていて・・・いいですね。
著者:高橋克彦
出版:文藝春秋
初版:1991.10.30.
紹介:人の記憶には、普段は忘れ去って思い出すことの出来ないものが記憶されている。それがあるとき、場所や時間によって、霧が晴れるようによみがえってくるときがある・・・その記憶は、封じ込められていた過去を掘り起こすのだ。
コメント:何だかちょっとホラーっぽくって、でも不思議なお話です。人がその記憶を忘れるためには、そのためになにかきっかけがある・・・「わすれたい」と思う理由が・・・この方、出身は盛岡の方なんですね。盛岡がでてくることが多いです。
著者:山崎豊子
出版:新潮社
初版:1999.07.30.
紹介:航空機事故最大のジャンボジェット機の墜落。
組合問題で左遷された恩地の姿がその現場にあった。事故の原因の究明と、遺族の怒りと悲しみ。自己をめぐる会社の体質と問題点を浮き彫りにした一冊。
コメント:あの御巣鷹山の事故。私の知らなかったその全貌が、今、白日の下に曝された。遺族のやり場のない憤りが伝わってくる。
山崎豊子さんの「沈まぬ太陽」に関するインタビュー記事もどうぞ。
著者:東野圭吾
出版:集英社
初版:1999.08.10.
紹介:大阪・建設途中に放置されたビルで男が殺されていた。
この男のまわりで不審な自殺騒ぎも起こる。一見無関係に見える小さな事件の陰に、見える謎の人物。事件に関わった刑事の捜査は、時効が成立したあとも続いていた。
「白夜行」とは、永遠に太陽の下ではなく、昼間のようだけど、ずっと日の当たらないところを生きている人生なのだ。何がその人の人生を変えたのか・・・。
コメント:最初の1/3くらいまで誰が主人公なのかわからなくて・・・
半分すぎてやっと、概略がつかめてきました。
次々起こる事件と、その裏側・・・ちょっと空恐ろしいお話ですが、PCのハッカーのこともでてくるし、最後まで、どんどん引っ張られていく感じがしました。
本文中に、「風と共に去りぬ」がタイトルだけ出てくるの。これが気になる。「風と共に去りぬ」である必然性があるのか。或いは他の本「老人と海」とか「トムソーヤの冒険」とか他のタイトルでも良かったのか・・・
「風と共に去りぬ」って、読んだことがないので、関連性がわからないのだ。気になるな・・・
著者:北村薫 絵:おーなり由子
出版:新潮社
初版:1999.08.25.
紹介:「さきちゃんのお母さんは、お話を作る人です。」
こうして始まるこの本は、さきとお母さんのほのぼのとしたふたりの世界です。
親子ではあるけど、じつは友達のようなつながり・・・
喜びや悲しみ、新しい発見、そして北村薫の暖かい世界が広がります。
コメント:この中で私が気に入ったのは「聞きまちがい」「連絡帳」ですね。
「聞きまちがい」はいかにも北村薫っぽい(笑)
「連絡帳」は、文句なしに憧れの世界です。
子供とこういう風につきあえたらいいなぁ・・・と思う本でした。
この本は、小5の娘も読んで「クフクフ」笑っていました。不思議な感じがするんだって。
おーなり由子さんの絵もほのぼのとやさしくてステキです。
著者:安野光雅
出版:福音館書店
初版:1984.08.10.
紹介:安野光雅の描くトランプの国「さかさま」の世界。
どっちが本物で、どっちが偽物なのか?
さあ、王様たちが話し合い・・・・
よくよくみると、ほらだまし絵もアチコチに・・・・
コメント:安野光雅は私の好きな作家です。
緻密な絵とユーモア。どこに何が隠されているのか?
これの日本語版は、4才から小学校初級向き。でも、大人がみても楽しいですよ。