私語辞典

著者:柳美里
出版:朝日新聞社
初版:1996.05.01.
紹介:柳美里による、私だけの「私語辞典」
もちろん辞書ではなく、「言葉」から連想された「言葉」にまつわるエッセイ集です。
柳美里さんの本は読んだことがないので、まず初心者の入門として紹介してもらった本です。
あ・合鍵・印度・嘘・噂・易者・女・男
か・飼う・記者・教師・靴・結婚・皇太子
さ・酒・羞恥・素っ裸・性欲・俗
た・食べる・乳房・妻・電話・同性愛
な・名前・逃げる・盗む・猫・乗る
は・歯・秘密・二人・塀・帽子
ま・幕切れ・耳・無一文・面会・妄想
や・野球・雪・欲望
らわ・ラーメン・利・離・ルンペン・霊・廊下・別れ
コメント:柳さんって、こういう感じの人なのね・・・ってイメージが出来ました。
「ゆう みり」って読むんですね、知らなかった。危うく「り」のところに分類するところだったわ。「私語辞典」はサクサク読めました。わたしが「うーん」と唸ったところは『酒』でした。ハイ!

総門谷

著者:高橋克彦
出版:講談社文庫
初版:1989.08.15.
紹介:岩手県で1年間に渡り、UFOの目撃者が続出、そして奇怪な焼死体さえも!だが、このUFO騒動の裏は?
 疑問を抱く超能力者霧神顕たちは、恐るべきパワーの魔手と闘い、傷つきながらも、ついに魔の本拠・総門谷に潜入した。そこで目にした驚愕の光景とは?
 構想15年を費やしたSF伝奇超大作。
コメント:いやー!奇想天外?ビックリ!ほんとに目が点になりました。
「総門」がなんだったのか・・・・もやられた!っていう感じでした。
「竜の柩」と同じで、どうも先が気になる終わり方ですね。
このつづきは総門谷R・阿黒篇と続くそうです。

六の宮の姫君

著者:北村薫
出版:東京創元社
初版:1992.04.20.
紹介:「円紫さんと私」のシリーズ4作目?
私は卒論で「芥川龍之介」をテーマにしているのだが、そんなとき、教授が出版社のアルバイトを紹介してくれた。ここで私は芥川の「六の宮の姫君」と不思議な巡り会いをする《あれは玉突きだね。・・・いや、というよりはキャッチボールだ。》のだ。芥川の生きるその時代をたどっているうちに、その時代が次第に明らかになってくる。そして、芥川の言うキャッチボールの真相は??
コメント:これって、ミステリー??ちょっとイメージが違いますよね。
今回のは、芥川と菊池寛の秘密(?)だった。まるで文学史を紐解いているみたいだったわ。北村薫のこのシリーズを読んでいると、どうもいろんな本を読んでみたくなります。とくに、私は、「文学史」にでてくる作品をあんまり読んでいないのよね。
ちょっと目に留まったのは正ちゃんの言葉でした。以下引用。
「絵を見たり音楽を聴いたりしたってさ、それで動かされるって結局、そこに自分を見つけるからじゃないのかなぁ。小さい頃の自分を見つけて懐かしかったりする。今の自分を見ることだってある。それから、未来の自分。十年二十年先の未来もあるだろうし、何万年先の未来もある。到底、手なんか届かない自分をさ、微かに」
うんうん・・・そうかもしれない。なんてね。

6月19日の花嫁

著者:乃南アサ
出版:新潮社
初版:1991.02.25.
紹介:彼女が気がついたのは、見知らぬ男の部屋だった。
彼女が記憶をなくしたのは、一度ではなかった。6/19日が近づくと、何らかのショックで記憶をなくす・・・6/19日はいったい何があったのか?忘れてしまいたい記憶とは?記憶をなくした6/12日から、18日までの物語です。
果たして、彼女は結婚できるのか?
コメント:ハラハラドキドキ。これは、文句なく面白く楽しめました。

青の炎

著者:貴志祐介
出版:角川書店
初版:1999.10.30.
紹介:突然アイツがやってきた。2階のあの部屋は、今では忌まわしい場所になっている。アイツさえいなければ・・・。僕がやらなければ・・・、母と妹を守るために、そうアイツは、病死するのだ・・・。
「青い炎」の山月記の部分は冷静に自己分析していて、何だか冴渡っている空気がこちらにも伝わってくる・・・
コメント:ウーン!すごい本だった。面白いとか、哀しいとか、恐ろしいとかちょっと一言じゃ言えないですね。何だか主人公といっしょに自転車でフルスピードで疾走しているような、緊張感に襲われます。
、ずっと気になっていたのは、母親の態度かな。私だったら、もっと子供に色んなことを話すと思う。「自分がどう思っているか。」話さなければ絶対に相手には伝わらないもの。もっと色々と感じたこともあるんだけど、まだ読んでいない人がいるからこの辺でやめておくね。

11月の扉

著者:高楼方子(たかどの ほうこ)
出版:リブリオ出版
初版:1999.09.30.
紹介:爽子が双眼鏡の中に見つけた「赤い屋根の白いうち」。訪ねてみるとそこは「11月荘」という家だった。東京へ転勤の決まった爽子だが、「11月荘」が爽子を呼んでいる。たった2ヶ月の短い下宿生活が始まった。
11月荘の住人たちとの、家族とは違ったふれあい。手に入れた「ドードー鳥」のノート。ノートにつづられたお話と、ぬいぐるみたち。耿介との出会い・・・
家族と離れて気付く、自分と母親の関係。思春期の少女が出会うステキなお話をどうぞ。
コメント:この本はいいですね。とても気に入りました。
まあちょっとメルヘンチックではあるけれど、お話を書くことによって現実の生活と、シンクロしていくのがとても楽しいです。
家族と離れることによって、気付かされる、自分の甘さや、家族の大切さ。それから母娘の隠れていた深層心理・・・・爽子が、前向きに生活しているところがとてもうらやましいです。娘にもすすめてみようかな?

天の瞳 成長編Ⅰ

著者:灰谷健次郎
出版:角川書店
初版:1999.12.25.
紹介:倫太郎が通う中学校で4名の少年が検挙された。校舎の窓ガラスを破った疑いらしい。学校側はきちんとした対応をとれないままでいる。倫太郎や青ポンたちの教師への違和感は爆発する。そんな折り、幼稚園時代の担任・エリ先生の結婚祝いを機に、倫太郎たちと、なんですねたち教師、園子先生、あんちゃんらかつての教師が一堂に会する。
 相手の身に添うこと、真剣に生きること、人を理解するということはどういうことなのか?シリーズ第五段、世代と境遇を超え、倫太郎たちは根元的な問いにぶつかってゆく。(表紙扉より引用)
コメント:本文のほとんどが会話で成り立っていますね。
気になるフレーズが所々にでてきました。
最後の場面で倫太郎たちが「まけてる」というのですが、次の成長編Ⅱでは、イトエちゃんたちに負けないように、「保留」にしておいた問題に取り組んでいくのだろうか?
このお話、実際にモデルがいるんですよねぇ・・・色々と考えさせられます。

家族趣味

著者:乃南アサ
出版:廣済堂出版
初版:1993.09.15.
紹介:宝石に魅了されてしまった「魅惑の輝き」
自分の体に魅了されていく「彫刻する人」
有能な上司「忘れ物」
勉強をしなくても成績のいい従兄弟「デジ・ボウイ」
計画通りの人生「家族趣味」
以上5つの短編集
コメント:どれも、一つのことにこだわって、社会を逸脱してしまうおはなしです。
もしかしたら、あなたのところにも同じ様なことが起こるかもしれない・・・
「デジ・ボウイ」は、中学2年生の男の子が主人公なのだが、ラストシーンは、何とも悲しい辛いお話です。

沈まぬ太陽(一)アフリカ篇・上  沈まぬ太陽(二)アフリカ篇・下

著者:山崎豊子
出版:新潮社
初版:1999.06.25.
紹介:国民航空の一社員恩地は、一方的に組合委員長に指名された。
持ち前の正義感で組合員のために奔走する恩地だったが、その結果、恩地に下されたのはパキスタンのカラチ赴任だった。カラチ→テヘラン→ナイロビという僻地のたらい回し・9年4ヶ月。
政界と癒着した親方日の丸会社と組合との闘争をベースに、10年間の僻地生活で次第にむしばまれていく恩地の精神状態は・・・・・
そして、その家族の置かれる状況は。
コメント:日本で組合活動の中に飲み込まれていく恩地。恩地は正しい・・・なのに、何故こんな仕打ちを受けなければならなかったのか?うまく会社の中で立ち回ることの方が良かったのだろうか?度々のチャンスを断って組合と共に生きる恩地の姿は潔いのだが、恩地を待つ家族の身になったら、耐えられないだろう。
果たして、夫に、悔いのない様にやって下さいなんて、言えるだろうか・・・
赴任地のアフリカで、狩猟を趣味として、ライオンを狙う恩地の姿が、寂しい。

宙返り 上・下

著者:大江健三郎
出版:講談社
初版:1999.06.15.
紹介:新興宗教の指導者であった「師匠」と「案内人」は、10年前「宙返り」をして、信仰も教義もすべてが茶番であったとテレビで大々的に告白した。その後の10年間、見捨てられた信者たちはどうしていたか?「師匠」「案内人」は何をしていたか。
「宙返り」以後、「師匠」の回りに集まってきた様々な人々、は何を求めていたのだろう。信仰・救い・彼らはそれぞれの救いを求めているのだ。
そして、果たして「師匠」は彼らの救い主になることが出来るのだろうか?
「宙返り」以前と、新しい教団への動きの中で、それぞれの救いの形が浮かび上がる。
コメント:新興宗教が何故、どういう過程で形成されていくのか?一つの形が見えてきたように思います。信仰・宗教というものには無関係に暮らしている私ではあるが、この作品の中では信仰を求める人間の心が見えてくるような気がしました。
誰もが救いを求めて、「師匠」自身も自分が何者であるのか迷っている。舞台の中央に担ぎ出す者によって、形作られていく「教団」はもはや自分の意志の届かないところにあるのだ。
末期ガンに冒された木津が、信仰に無縁なまま「師匠」を見る、その離れた視点が興味深く思われる。
下巻p44からの引用ですが「苦しんで教団にやってくる人たちには、もとめる救いへの方向づけがあるということでした。かれらはそれぞれ、自分の救いに向かって進む。なお救いをかちとっていないという自覚が強いほど、困難でも救いへの途上にあることは自覚している。むしろ、救いをかちえていないという自覚こそが、彼らの信仰を加速する力でした。」ここが、私にとっての一番のキーワードでした。