江戸ふしぎ草子

著者:海野弘
出版:河出書房新社
初版:1995.08.25.
紹介:江戸の町の片隅に、名も知れず生きる「庶民」
そんな人々に、ちょっとスポットライトを当てて見れば、ほらあちらこちらに、ドラマが繰り広げられる・・・
「ひも結びの達人」「煙芸師」「鋳物師」「経師屋」「花火師」「的人」「仕組屋」等々江戸という時代背景と、風俗の資料をおり交ぜながら、問わず語りで語るその口調。
思わず引き込まれるのは、話の中の女たち、男たちがちょっとせつないから・・・
コメント:この本、小説でもない。エッセイでもない。なんと言えばいいかと思うに、やはり「江戸ふしぎ草子」これにつきます。ちょっと不気味で、せつなく、哀愁を漂わせ、そうかとおもうと、ホッとしたり・・・・
中で、ドキッとしたのは「穴掘りの意地」。学問にはまった「鋳物師」と、行き送れた「書道家の娘」。身分の違いを乗り越えて学問という共通の趣味をもって結婚したふたりだったが、書物の話で意見が食い違い双方出典を探す。「女学者を気取っても、所詮その程度のものか」しかし女房の意見が正しく夫をどんどん言葉で追いつめる。・・・自分は調子に乗りすぎているような気がしたが、止めることができないのだった。これまでたまっていた不満があとからあとから流れ出してきたようであった。・・・「所詮女学者ですって?じゃあ女学者以下はなんというのです。学者職人とやらでしょうか」夫の顔が赤く膨れ上がった。
それ以後、夫は、娘の婿の家から帰ってなかった。そして夜、穴を掘り、朝にそれを埋めるという、無意味のような作業を死ぬまで繰り返したのだ。
ああ!こわい・・・「逆鱗」に触れたのだな。夫婦ゲンカには注意・・・

緑の我が家

著者:小野不由美
出版:講談社X文庫
初版:1997.06.05.
紹介:浩志は、父親の再婚をきっかけに家を出た。壁に囲まれた路地を入り、「緑の扉」を開いた浩志を迎えたのは、高校生の一人暮らしには充分な広さの部屋と、不可解な出来事。無言電話、奇妙な落書き、謎の手紙etc・・・
そして「出ていったほうがいいよ」とつぶやく和泉少年の言葉が意味する物は・・・・。嫌がらせ?それとも、死への誘い?
・・・怖い・・・。しかし浩志の家は、もはやここしかない!息をもつかせぬ本格ホラー。
コメント:「寂しい、帰りたい、帰る家がない、待っていてくれる人がいない。」
それが浩志の心であり、また和泉少年の寂しい思いだったの。忘れていた過去の記憶が次第によみがえるに連れて、次々と起こる不思議な出来事。そして現実の事件が重なって追いつめられていく・・・・
幼い頃の記憶と、家族とのわだかまり・・・少年の心の隙間に、ほら誰かが忍び寄る。
本格ホラーといっても、なんとなく、ホッと救われる。

なぞの転校生

著者:眉村卓
出版:角川スニーカー文庫
初版:1975.04.21.(初版)1998.7.1(改訂版)
紹介:よく晴れた日曜日、宏一の家の隣に引っ越してきたのは、ギリシア彫刻を思わせるような美少年だった。エレベーターに乗り合わせた宏一は、ほんの短い停電にも無我夢中でそこから脱出しようとする少年を不思議に思った。
翌朝、宏一の教室に、その少年、山沢典夫が転校してきた!スポーツ万能、成績抜群、あっと言う間にクラスの人気を独占する山沢。宏一はいつしか転校生の秘密にひかれてゆく。
学園SFの傑作、98年秋映画化。
コメント:すごく懐かしい感じがする。NHKのテレビドラマでこういうのをやっていたような記憶が・・・違ったかな?いま読んでもとてもすがすがしい気分になれる1冊でした。
「侵された都市」は今になって読むと、この先にもう一つどんでん返しがあってもいいような感じがしました。これが20数年の時の流れなのかもしれないけど、時代や感性がもっと過激なものを要求している。そういう自分の感性が少し不安になる・・・。
※大体この本の解説が「手塚治虫」というのがすごい!!

イノセント(沈む少年)

著者:図子慧
出版:角川書店
初版:1997.09.30.
紹介:女教師の忘れたい過去。昔の恋人とその友人が、人工知能を介して再会する。研究の内容を知らされぬうちに人工知能との学習交流をはじめるのだが、人工知能がその制作者とだぶりはじめる。
次々と与えられた課題をこなす人工知能が果たした、最後の課題は・・・・・
3人の男女のもろくせつない愛を描いた意欲作。
コメント:ストレートに表現されない愛。硬質な愛の表現にいつも女は翻弄される。愛はいつも何か別のものに姿を変えて存在するのか?
「図子 慧」の名はずっと前に講談社のコバルトで読んだ記憶があり、すごく印象的でした。特に彼女の描く「男の子」はちょっと硬派で異質な感じがしていました。それで今回思わず手が伸びた1冊です。
[innocent]は、「純真な」とか「罪のない」という意味でした。

楽園

著者:鈴木光司
出版:新潮社
初版:1990.12.10.
紹介:古代に離ればなれになったひとつの種族が、精霊に守られて再びひとつになろうとする。長い年月、様々な世代を超えて受け継がれていくふたりの思いが、現代によみがえる。
精霊に導かれ、守られ、太古の思いが今再びひとつになる。
コメント:壮大なロマン。「りんぐ」「らせん」とは趣が異なるが、作者の根底に流れる「子ども」と「妻」への思いがそこかしこに見える。
それと、生命が再生するイメージとして「暗い穴の中の水からはい上がる。」という情景が共通しているのが興味深い。作者に何かトラウマでもあるのか?

らせん

著者:鈴木光司
出版:角川書店
初版:1995.07.31.
紹介:観察医の安藤が解剖した、友人高山竜治の死体から根絶したはずの「天然痘ウィルス」が発見された。竜治の腹から飛び出した数字はなにかの暗号なのか?同じ症例で死んだ人々に共通するものは何か?調べるうちに「見たら一週間後に死亡する」というビデオの存在を知る。ビデオテープはどこへ行ったのか?見えないウィルスが姿を変え増殖する。気付かぬうちに安藤にも・・・・。
コメント:リングの続編。次から次へと押し寄せる思いがけないストーリー展開にワクワクする。「らせん」を読んで改めて「リング」の不気味さがひたひたと押し寄せる。
「やられた!」読み終えて、作者の策略にまんまとはまった自分がおかしくなる。
この話は怖くない。「ホラー」じゃないと思う。鈴木光司という人は、自分よりも「子ども」「妻」を大切に思っている人のような気がします。

路傍の熱血ポンちゃんが行く

著者:山田詠美
出版:講談社
初版:1997.05.25.
紹介:山田詠美のエッセイ。姪のかなちゃん、夫のCD、それぞれの家族の愉快なエピソードの中には、作品には見えない素顔のポンちゃんが見え隠れする?
(「小説現代」95年8月号~97年3月号に掲載されたものです。)
コメント:楽しい、なんと言っても、山田詠美の人間の見方がいい。好きなものは好き、嫌なものはいや。あんまり他人にこびたりしないところは読んでて気持ちがいいです。
この本を読んで、先月読んだ「4U」の中の一編が記憶の中にでてきました。「子どもを永遠にちっちゃな子どもだと思っているマミィ」というのは、ダンナ様のお母さんのことだったのです。どうもこの話だけが、他の話とは違和感があって気になっていたはずです。

夏のロケット

著者:川端裕人
出版:文藝春秋
初版:1998.10.10.
紹介:マンションの一室での爆発事故。それはテロを目的とする小型ミサイルの爆発なのか?宇宙担当記者の高野は事件の写真の中からロケットの姿を見いだす。この事件のウラにあるものは何か・・・・それは高校時代の記憶を思い出させた。高野が追いかけたその先に彼を待ち受けていたものは・・・・
かつての宇宙少年たちの夢とロマンス。それぞれの思惑をのせてマーズ18号は宇宙へ飛び立った。
コメント:第15回サントリーミステリー対象優秀作品賞受賞作。
これってミステリーなの?どちらかというとSF?読後は明るい気持ちになれます。「単なるノーテンキな道楽者の記者」となった主人公の高野君は、いまいち自分が見えてないなーと笑えます。まあ人のことは笑えないけど。
個人的には序盤のロケット開発史や技術説明は、全体としてみれば下地として必要なんだけど、ちょっと読むペースが鈍りました。
それとただひとりの女の子「純子」の書き方には、存在感が感じられない。

リング

著者:鈴木光司
出版:角川ホラー
初版:1991.06.
紹介:同日の同時刻に苦悩と驚愕の表情を残して死亡した四人の少年少女。雑誌記者の浅川は姪の死に不審を抱き調査を始めた。
そして今、浅川は一本のビデオテープを手にしている。少年たちは、これを見た一週間後に死亡している。浅川は、震える手でビデオをデッキに送り込む。期待と恐怖に顔を歪めながら。画面に光が入る。しずかにビデオがはじまった・・・・。
恐怖とともに、未知なる世界へと導くホラー小説の金字塔。
コメント:ホラー小説初体験!なんとなく敬遠していたのですが、ついに読むことにしました。とぎれとぎれに読むよりも、一気に読んだ方が怖くないみたいです。
ストーリーとしては、思いがけないどんでん返しもあって、おもしろく読めました。
でも、やっぱりホラーは苦手みたい(笑)

ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー

著者:山田詠美
出版:角川書店
初版:1987.05.06.
紹介:ある時、街ですれ違った男の上着の中の匂いを嗅いで、私は昔の男を思いだして道の真ん中で泣きたくなる。ある時、バーで流れる黒人音楽は特定の男を思い出たせて私を泣かせる。嗅覚があってよかった。五感が正常でよかったと、神様に感謝するのはこんな時。そして、恋物語を泣かずに書ける自分の理性にも感謝する。【著者のあとがきより】
コメント:これも短編集。やっぱり山田詠美の感性はいいなあと思います。女を愛する男たちがとっても素敵に描かれている。彼女がそれだけ男たちを愛していたってことの裏付けなのかもしれない。もっとはやく山田詠美を読めばよかった。